思い川 [補記]
永井荷風の「すみだ川」をベースにした短編小説です。
思い川は本来「思川」と書きますが、
なんとなくこれだと情緒に乏しい感じがして「い」を追加した次第です。
作中に出てくる「泪橋」も実在した地名で、
近くに刑場があったことから、罪人とその家族や思い人にとって
今生の別れの場であったそうです。
現在は「泪橋交差点」として地名のみが残っています。
「思い川」も「泪橋」も書き始めた当初はまったく知らなかった地名なんですが、
あれこれ調べながら書き進めるうちに自然と舞台として整っていきました。
予定外に物語が広がって、
それがひとつところに収束していくのも創作の歓びのひとつだと思います。
文体については、宮本輝の「幻の光」という短編を意識しています。
語りの小説が書きたくて挑戦してみたんですが、
実際に書いてみて輝さんの凄さにあらためて気づかされるという……。
長吉とお糸の出身地が大阪になってしまったのも、
たぶん輝さんの影響でしょう(笑)