ものがたりたがり

戯れに書いた短編小説などなど。

2017-05-01から1ヶ月間の記事一覧

カノン(終. 2人は空気の底に)

あれからどのくらいの時間がたっただろう。ぼくはまた、いろんなことを忘れかけていた。相変わらず彼女はほとんど口をきいてくれないから、記憶を確かめ合うこともできない。ぼんやりとごはんのことを考えて、無意識に排泄をして、やがて眠りに落ちる日々が…

カノン(3.敵)

奇妙な共同生活がしばらく続いた。彼は何かあるとぼくらを励まそうと、一生懸命話しかけてくれた。最初はぶっきらぼうなやつだと思ったけど、気持ちのやさしいやつだったんだ。 でも、ぼくも彼女も、彼の好意に応えてあげられなかった。彼女もきっと、ぼくと…

カノン (2.外の世界)

ある日、怪物が新たな同居人を連れてきた。ぼくたちとは体の形も色もまったく違っていて、細くて銀色の、小さな体をしていた。言葉が通じるのかわからなくておそるおそる話しかけると、彼は目をぱちくりさせて答えた。 「なんだよ、金魚の水槽か。おれもやき…