ものがたりたがり

戯れに書いた短編小説などなど。

2016-12-01から1ヶ月間の記事一覧

ツルトンタン[補記]

太宰治の短編「トカトントン」のパロディです。 勢いだけで書いた感じ。他には何もございません。 「建築関係トントントン」でもいけるかもしれない……。 ヴィヨンの妻 (新潮文庫) 作者: 太宰治 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1950/12/22 メディア: 文庫 …

ツルトンタン

拝啓。 一つだけ教えて下さい。困っているのです。 私はことし三十三歳です。十年勤めた神田の出版社を辞めて、この夏から六本木の広告会社で働きはじめました。広告会社と申しましてもやっていることは色々で、健康食品も売りますし化粧品も売りますし、占…

葬送[補記]

Wake Owlの「Gold」という曲がありまして、 そのPVをもとに書いた短編小説になります。 黄色くざらついた映像が、黄砂のように感じられたわけですね。 Wake Owl - Gold [Official Video] 一見、醜と思えるものも、ある一瞬だけ美に転じることがある。 死と生…

葬送

空港に降り立ったとき、彼は思わず口を覆い、目を細めた。 黄砂が街を覆っていた。まともに息を吸えば肺のなかまで冒されそうな気がして、彼はハンカチで口元を隠して呼吸を浅くした。煙のなかに立っているような気分だった。 こんなところで人は暮らしてい…

思い川 [補記]

永井荷風の「すみだ川」をベースにした短編小説です。 思い川は本来「思川」と書きますが、 なんとなくこれだと情緒に乏しい感じがして「い」を追加した次第です。 作中に出てくる「泪橋」も実在した地名で、 近くに刑場があったことから、罪人とその家族や…

思い川

四月の半ばの夕暮れどき、墨田川の堤は人もまばらではぐれる心配なんてなかったけど、あんたは黙って私の手を引っ張ってくれました。そうなることを察して左側を歩いていた自分が、少し浅ましく思えました。指輪を外す度胸もないくせに、こうしてあんたの隣…